田口真咲は関根正二が恋をした女性である。彼女は大阪出身の画家であるが、関根が晩
年の独自の作風に目覚めるきっかけのひとつを与えたことに加えて、関根の絵のモデルに
なった可能性もある重要人物である。
資料が乏しいため、田口真咲についてあまり多くのことは知られていない。彼女が描いた絵 が現存するかどうかは分からず、僅かに《京の舞妓》(または《京の街》)という作品の図版が 確認されているのみである。しかし、彼女は晩年の関根の芸術を理解する上で避けて通れな い人物なので、現時点で分かっている資料を網羅して、彼女について知りうることをまとめて おくことにした。筆者は彼女について複数の論文を執筆する予定だが、本稿はその序文であ る。 なお、関根正二が友人の洋画家、上野山清貢の妻で小説家の素木しづに恋をしていたと し、素木が亡くなった後の関根の作品には彼の素木に対する恋愛感情が反映されており、 《信仰の悲しみ》は彼女の小説の影響を受けているとする説が丹尾安典氏によって提唱され たことがある。この説は田口真咲と直接関係はないが、1918(大正7)年春頃以降の関根の恋 愛と制作の関係について考える上で重要な問題なので、本稿で「補論 関根正二と素木しづ の関係について」としてこの説について論じておいた。 本稿の内容については、『田口真咲研究(二) 関係者が残した資料の紹介・解説』(概要は こちらを参照されたい)所載の「『田口真咲研究(一) 序文』 補足・訂正」も参照されたい。 |